当主のフランク・パスカル氏の子供の頃のブドウ畑にまつわる思い出といえば、雨、雹、寒いというものだけ。ワイン造り以外の道という条件で最終的に選んだのが工業機械学でした。ドメーヌを引き継いだのは跡継ぎとしての道を進んでいた兄の突然の事故で亡くなった為だそうです。その時、たとえ生産量が以前と比べて減ろうとも、自分にしかできないもの、自分が誇りにできるシャンパーニュを作りたいと考えたそうです。94年、自分のキュヴェを作り始める当初から気になっていた化学肥料の使用を徐々にやめていきます。
熱心なビオディナミストで敏感な感性の持ち主である彼は、2002年からシャンパーニュ地方ではいち早くビオディナミを開始。それとともに畑のブドウが生き生きとしたエネルギーに満ちた状態となりシャンパーニュの味わいもよりミネラル感が増しました。2005年には3.5ヘクタールの畑を全てビオディナミに転換しています。
かのシャンパーニュの地で、金のなる木にリスクを犯す提案は狂気の沙汰ではないと言われました。科学肥料に頼らないビオディナミはブドウ栽培にとても手間がかかるので、コストは60%アップするからです。
シャンパーニュ地方はフランス国内のブドウ栽培の最北にあたり、ぶどうが熟しづらい環境にあります。その為醸造の際に補糖して調整するのが一般的ですが、ビオディナミにより健全に育てられたぶどうはきちんと完熟するので、過度なドサージュ(補糖)を必要としません。ドサージュに頼らない最低限に抑えた醸造方法の筆頭がフランク・パスカルです。
さらに彼はより純粋な味わいを目指して、酸化防止剤SO2無添加のシャンパーニュにも挑戦しています。
「栽培だけでなく、自分の生き方も変わってきた。もっと徹底してビオディナミを実行したい。」そういったまじめな姿勢はワインの気質に表れています。