シャトー・ランゴア・バルトンは、1821年にサン・ジュリアン村で創業した、メドック3級の歴史あるシャトーです。1855年の公式格付け時から所有者が変わらないシャトーの数は少なく、シャトー・ムートン・ロートシルト、シャトー・ランゴア・バルトン、シャトー・レオヴィル・バルトンの3つですが、そのうち2つがバルトン家所有のシャトーです。
シャトーの歴史は、1722年、北アイルランド出身のトーマス・バルトンがボルドーに移住し、ダニエル・ゲスティエと共同で1725年にバルトン&ゲスティエ社を設立したことから始まりました。1821年には、トーマスの孫にあたるヒュー・バルトンが「シャトー・ランゴア」を購入。その後レオヴィルも購入し、多くのブドウ畑を所有するようになりました。1924年からロナルド・バルトンの代になり、シャトーは二つの戦争を経験しますが、ブドウ畑は無事に守られ、終戦後には本格的なワイン造りが再開されました。そして、1983年にロナルドが亡くなった後、甥のアントニーが8代目の当主となりました。アントニーは1967年までバルトン&ゲスティエ社に輸出部長として勤務し、同じ年にネゴシアン部門である「レ・ヴァン・ファン・アントニー・バルトン」を設立しましたが、こちらはアントニーの娘リリアンが経営を引き継ぎ、父とともにシャトーの伝統を守っています。
シャトーは、メドック地区のジロンド川を見下ろせる、急坂のアップダウンがある中間に位置しており、その南側と北側にランゴアとレオヴィルの畑があります。1800年代にヒュー・バルトンがシャトー・ランゴアを購入した同時期に、シャトー・レオヴィルが3つに分割されることになり、そのうち2つの畑はシャトー・ラスカーズ、シャトー・ポワフィレとなり、1つがシャトー・レオヴィル・バルトンとしてバルトン家の所有となった経緯を持っています。この3つのシャトーはレオヴィル3兄弟と呼ばれており、シャトー・ランゴア・バルトンとシャトー・レオヴィル・バルトンも兄弟メゾンと呼ばれています。
ちなみに、レオヴィルは独自の生産設備を持っていないため、シャトー・ランゴア・バルトンとシャトー・レオヴィル・バルトンは現在でも同じ所有者の下で、同じ製法と施設を使ってワインを醸造・生産しています。しかし、この二つのシャトーから生まれるワインは全く異なる味わいを持っており、それぞれの畑の個性がはっきりと表れています。
シャトーが所有する畑の面積は15haで、シャトー・ボーカイユの隣に位置しており、表土には砂利を多く含み、下層は粘土質といった特徴を持っています。この畑で育つ平均35年を経たブドウの樹13万5千本から、年間およそ9万本のワインが生産されています。栽培している品種は、約7割がカベルネ・ソーヴィニョン、メルローが約2割、残りがカベルネ・フランです。
収穫は手摘みで行われ、畑と醸造所で選果を行った後、除梗・粉砕され28基ある木製のタンクに入れられます。ステンレススチールのタンクを使わないといったことをはじめ、他の作業工程においても伝統的製法が守られており、果実味や色合いを高める低温マセレーションも行っていません。
ワインは、アルコール発酵、マセレーション、マロラクティック発酵を行った後、オーク樽に詰められます。新樽率は60%で、テロワールと相性がいいという理由からモーリー社の樽のみを購入し使用しています。樽の移動は行わず、同じ貯蔵室で合計18か月間熟成させます。熟成中は3か月に1回の澱引きが行われ、コラージュ(清澄作業)もゼラチンやベントナイト等は用いず伝統的な清澄剤である「卵白」を使い昔ながらの方法で行っています。
シャトーの旗には、シンボルであるオオカミの絵柄とラテン語で「誠実」と「勇気」を意味する言葉が記されています。それはまさに、伝統を忠実に雄々しく守りながら質の高いワインを造り続けるという、シャトーの精神が表されているように見えます。
ランゴア・バルトンは、兄弟シャトーのレオヴィル・バルトンよりも若いうちから楽しめますが、何と言ってもおすすめはオールドヴィンテージ。7~25年の熟成期間を経て飲み頃を迎えるワインは、洗練された上品な香りと力強さのバランスが取れており、凝縮感のある味わいを楽しむことができます。
また、多くのヴィンテージワインが非常に高価になる傾向に対して、現当主のアントニー・バルトンは抵抗を感じていました。そのため、魅力的な正統派ボルドーでありながら、他のワインと比較して価格が抑えられています。
ランゴア・バルトンとレオヴィル・バルトンのセカンドワインはヒュー・バルトンの娘・スーザンにちなんで「レディ・ランゴア」と名付けられており、女性の肖像が描かれた美しいラベルとフルーティーですっきりした味わいが特徴です。