「ジル・ブートン」は、ピュリニィ・モンラッシェの裏手に佇むサン・トーバンの集落ガメイ村で1878年から続く家族経営の老舗ドメーヌです。年間平均6万本を生産していますが、そのワインのほとんどをドメーヌの門外不出、もしくはフランス国内の個人顧客向けに販売しており、ミシュランの星付きレストランにも提供されています。
5代目にあたるジル氏は、幼いころから祖父が当主を務めるドメーヌの倉庫や葡萄畑を遊び場にして育ったワインの申し子。ボーヌ村の醸造学校を卒業しすぐにドメーヌへ入り、祖父の下で10年間修行を重ねた後、当主に就任しました。当初4haだった所有畑は、現在、サン・トーバンをはじめ、ピュリニィ・モンラッシェやシャサーニュ・モンラッシェなど全部で17haまでに拡張。ジル氏の息子で6代目となる息子ジュリアンが栽培を担当し、ジル氏が醸造を担当しています。(ちなみに、ドメーヌの入り口には、象徴的なロゴにも描かれているバラの花が植えられています。)
以前は昔ながらのスタイルで長期熟成型の重いワインを造っていたドメーヌでしたが、ジル氏の代である1995年以降からリュット・レゾネによる減農薬栽培を始め、土壌の状態に細心の注意を払うことでブドウの収量を自然に抑えるよう造り方を転換。現在では、ピュリニィやシャサーニュの1級畑の平均収量よりも低く、40~50hl/haにまで抑えられています。これらの取り組みにより、ワインはサン・トーバンの持つピュアでナチュラルなテロワールの個性をより一層反映したエレガントなスタイルへと進化しました。
醸造について、白ワインの発酵は培養酵母を加えず、定期的にバトナージュ(澱の攪拌)を行いながら、20~30%の新樽で12~15ヶ月間澱とともに熟成させます。赤ワインも同様に発酵は培養酵母を加えません。温度管理されたタンクで自然発酵させ、15~20日間ヴァッティング(混ぜ合わせる作業のこと)を行った後、30%の新樽で15ヶ月と18ヶ月熟成させます。
一般的に、ややマイナーな産地の印象がある傾向があるサン・トーバンですが、実は偉大な白ワインの産地として有名な「シャサーニュ・モンラッシェ」と「ピュリニィ・モンラッシェ」に隣接しており、造られるワインおよそ70%が白ワインということからも、まさに知る人ぞ知る「隠れたシャルドネの聖地」なのです。
なかでもモンラッシェに隣接する「アン・レミリー」やモンラッシェの丘に位置する「ミュルジェ・デ・ダン・ド・シアン」は、グラン・クリュの「シュヴァリエ・モンラッシェ」やプルミエ・クリュの「シャン・ガン」と地続きという、絶好のロケーションにあります。
このような特級や1級のワインに匹敵するはっきりとした骨格やミネラルを持つ素晴らしい味わいを持ちながらも、ピュリニィやシャサーニュに比べて価格が抑えられていることから、ブルゴーニュにおいて一番と言っていいほどのコストパフォーマンス誇るワインです。