ジャック・カシューは、ヴォーヌ・ロマネに本拠地を置く、70年以上の歴史を持つ家族経営のドメーヌです。1994年に前当主ジャック氏が引退し、現在の当主は息子のパトリス氏、2012年からはパトリス氏の息子のシャルル氏もドメーヌに参画しています。眼鏡をかけた長身のパトリス氏は、教師のような風貌で性格も真面目。クリマの特徴や樹齢などをこと細かに記憶しており、そんな彼が手掛けるワインの品質はお墨付きで、ロバート・パーカー氏も4ツ星の高評価を付けています。
合計6.7haの所有畑のほとんどはドメーヌが居を構えるヴォーヌ・ロマネにありますが、ニュイ・サン・ジョルジュとシャンボール・ミュジニーにも小さな区画を持っています。特級畑エシェゾーには1.1haの畑を所有しており、「カルティエ・ド・ニュイ」「レ・シャン・トラヴェルサン」「レ・プーライエール」「アン・オルヴォー」というそれぞれ異なる個性をもつ4つの小区画が一体になることで、絶妙なバランスを備えたワインを生み出します。
エシェゾーもさることながら、ドメーヌのフラッグシップは何と言ってもヴォーヌ・ロマネの一級畑「ラ・クロワ・ラモー」です。この畑は、特級畑ロマネ・サン・ヴィヴァンに隣接するわずか0.6ha程の区画で、所有するのはジャック・カシューの他は2生産者のみ。所有者の数、そして区画面積からも、大変希少価値の高いワインとして知られています。ブルゴーニュ愛好家の間ではジャック・カシューを代表する畑として有名で、ドメーヌが手掛けるワインのラベルには、ヴォーヌ・ロマネに存在する5つの十字架のなかでも一番古いと言われている、ラ・クロワ・ラモーの石垣上にある十字架(クロワ)が描かれています。
ラ・クロワ・ラモーは、元々「サン・ヴィヴァン修道院」の畑として、現在のロマネ・サンヴィヴァンに含まれていた区画であることから、1930年の格付けで特級畑を外れて以降も何度も特級畑への昇格を嘆願されてきました。1980年代半ばには、ジャック・カシューも特級畑昇格をINAO(国立原産地名称研究所)に嘆願したほど。直近の2022年には、所有者の一人であるニコル・ラマルシュが、ドメーヌ・デュ・コント・リジェ・ベレールへ25年という長期間に渡り賃借契約したことでも注目を集めました。このように、ラ・クロワ・ラモーのポテンシャルの高さは、ワイン愛好家だけでなく有名生産者をも惹きつけているのです。
栽培では、リュット・レゾネ(減農薬栽培)を実践。醸造については、100%除梗し、ステンレスタンクで醸造を行います。その後11~15度の温度で1週間の低温マセラシオン(醸し)を行い、自生酵母を用いて自然に発酵。出来上がったワインは約17ヵ月間の樽熟成をさせます。新樽の使用率は比較的高く、村名で約30%。一級畑と特級畑は100%の新樽を使用し熟成を行いますが、それは樽の風味に負けないほどの凝縮感をワインが備えているからこそできることです。また、ブドウの味わいを最大限に表現するため、ドメーヌの設立以来ワインに濾過処理を施したことは一度もありません。ちなみに、1991年からは清澄処理についても行っておらず、このこともドメーヌの大きな特徴と言えるでしょう。
こうして造られたワインは、リッチな果実味の中にエレガントさが備わっており、長い余韻も魅力です。若いうちからでも楽しめますが、「カシューのワインは、12~15年間はうまく熟成が進む」とロバート・パーカー氏がコメントしていることからも、熟成を経て進化するスタイルも魅力的です。また、各クリマの特徴を見事に引き出し、バランスも絶妙。ワイン・アドヴォケイトでも「なぜもっと注目されないのか理解できない」とコメントされるなど、評論家からも称賛を得ています。
特級から広域区画のキュヴェまでスタイルや品質の一貫性が高いのもドメーヌの魅力で、ベーシックなブルゴーニュやブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイにおいてもたっぷりとした味わいがし、非常に満足度の高い仕上がりとなっています。